フルダイブVR 機器製造工程

了解!「フルダイブVR」を“脳と身体への入出力まで含む超没入XRデバイス”として想定し、現実に実行可能な(=現在の技術で実装しうる)非侵襲型ルートを軸に、製造~量産までの工程を丸ごと俯瞰できる形でまとめます。
(侵襲型=医療級は規制が大幅に増えるため補足に分離)

前提整理(レベル定義)

  • Lv.1: 高機能XR+全身ハプティクス … HMD/パススルー、アイトラッキング、触覚スーツ・手袋、トレッドミル等。
  • Lv.2: BCI入力併用 … EEG/近赤外NIRS等で意図推定(手指・視線に加え脳信号を補助入力)。
  • Lv.3: 神経刺激によるフィードバック … tES(tDCS/tACS)、経皮電気刺激、局所振動/EMSで“感覚の疑似再現”。
    以下は Lv.1~2(+限定的Lv.3) を前提にした製造工程です。

製品アーキテクチャ(主要モジュール)

  1. HMD本体:光学(パンケーキ/マイクロOLED or μLED)、カメラ(インサイドアウトSLAM)、IMU、SoC/メモリ、無線(Wi-Fi/BT)、冷却。
  2. アイトラッキング:IR照明+IRカメラ、キャリブソフト。
  3. ハンド/ボディトラッキング:手指カメラ/グローブ/外部ビーコン(必要に応じて)。
  4. ハプティクス:スーツ/グローブ/靴(リニアアクチュエータ、EMS、振動、空圧)。
  5. BCI(任意):ドライ/湿式EEG電極、フロントエンドADC、ノイズ対策。
  6. 電源:セル(18650/21700/パウチ)+BMS、急速充電、UN38.3/62133対応。
  7. エンクロージャ:樹脂/マグネ合金、ヘッドバンド、熱設計。
  8. ファーム・ソフト:OS/描画/トラッキング/BCI推定/安全制御。

製造~量産の全体フロー(EVT→DVT→PVT)

0. 企画・要求仕様

  • 体験要件(視野角FOV/PPD/リフレッシュ/遅延/追従精度/稼働時間/質量/騒音)
  • 安全要件(皮膚接触、EMS/tES出力上限、温度、EMC、SAR)
  • コスト/歩留まり/サプライ可用性KPI

1. 設計(DFX徹底)

  • システム:電気(SoC/PMIC/高速配線)、光学(レンズ/ディスプレイ)、RF、熱、機構。
  • DFM/DFT/DFS:量産・検査・組立・サービス容易性。
  • FMEA:故障モード洗い出し(光学塵、ケーブル断線、熱暴走、汗浸入等)。

2. サプライチェーン確立

  • ディスプレイ/レンズ/カメラ/IMU/アクチュエータ/電極/バッテリの一次・二次ベンダ確保
  • 重要治工具(治具、貼合、塵埃管理)、EMS/CM選定、LT(リードタイム)確定

3. EVT(試作検証)

  • 試作基板/光学サンプル/機構α
  • 主要KPI実測:PPD/MTF、遅延、発熱、SLAM精度、アイトラッキング精度、EEG SNR
  • 安全限界の確認(皮膚温、電気刺激上限、絶縁、漏れ電流)

4. DVT(設計妥当性)

  • 量産プロセス想定でのサンプル(β/γ)
  • 信頼性試験:落下、振動、ねじり、汗・皮脂・塵埃、温湿度サイクル、連続稼働、静電気
  • 規制前監査:EMC/無線/SAR/62368-1、皮膚接触材料の生体適合性(ISO 10993相当)

5. PVT(量産妥当性)

  • 量産ライン・治具・SOP完成、タクトタイム/直行率の目標達成
  • OBA(Outgoing quality audit)安定 → 量産GO

部品別・製造工程の要点

A. 光学・表示

  • μOLED/μLEDの貼合・レンズユニット組立(クリーン環境)
  • 焦点・瞳位置・収差調整、防塵/曇り対策コーティング
  • 検査:MTF、輝度ムラ、色度、ダストカウント

B. カメラ・トラッキング

  • センサー基板実装(SMT)、レンズ嵌合、IR照明ユニット
  • 幾何キャリブ(外部既知パターン)、温度ドリフト補正
  • 検査:暗電流、SNR、歪み、SLAMループ閉合誤差

C. IMU/基板(メイン/サブ)

  • 高速配線(MIPI/PCIe/LPDDR)、シールド/EMI設計
  • ファンクションテスト(DFT:ICT/Boundary-scan)
  • 焼きなまし/ストレステストで早期故障除去

D. ハプティクス(スーツ/グローブ)

  • アクチュエータ実装(LRA/ERM/空圧/EMS)、配線の屈曲寿命
  • 皮膚接触材料:通気・汗処理、洗濯耐性
  • 検査:振動周波数レンジ、応答時間、出力バラツキ

E. BCI(EEG/NIRS/EMS)

  • 電極(Ag/AgCl等)成形、インピーダンス管理、ヘッドキャップ寸法許容
  • アナログ前段のノイズ/アース/アーチファクト除去
  • 刺激系(tES/EMS)は二重冗長の電流制限&フェイルセーフ

F. 電源・熱

  • BMSキャリブ、セルマッチング、保護素子(PTC/ヒューズ)
  • ヒートパス最適化(ヒートパイプ/ベイパーチャンバー、ファン騒音)

G. エンクロージャ/装着系

  • 射出成形/マグネ合金ダイキャスト、表面処理(ハードコート、指紋対策)
  • ヘッドバンド機構の繰返し耐久、重量バランス調整

組立ライン例(セル/フロー)

  1. 前加工:基板実装(SMT)→外観/電気検査
  2. 光学ユニット:貼合→防塵→光学キャリブ
  3. センサーユニット:カメラ/IMU組付→幾何キャリブ
  4. 筐体一次組立:フレキ配線、締結トルク管理
  5. 電源/BMS組付:絶縁/リーク/短絡検査
  6. 冷却系装着:ペースト塗布量検査、ファン動作
  7. ファーム書込/起動:シリアル刻印、マック/BTアドレス焼付
  8. 総合検査:表示、遅延、カメラ、SLAM、アイトラッキング、無線、オーディオ
  9. 安全試験:表面温度、漏れ電流、EMS上限制御試験
  10. 環境・信頼性抜取:温湿度、振動、落下
  11. 外観・クリーニング:パーティクル/擦傷検査
  12. 梱包:トレーサビリティ(QR)、ドキュメント同梱

タクトの目安(例):60–120秒/台(HMD)、5–10分/セット(ハプティクス/BCI)
必須治具:位置決め、光学評価、レンズフォーカス、カメラ幾何、RF暗箱、エージングラック


キャリブレーション/テスト項目(抜粋)

  • 映像:MTF/色度/輝度ムラ、レンズ中心ズレ
  • 追跡:IMUバイアス、カメラ外内パラ、SLAM精度(ループ閉合誤差<既定値)
  • 視線:視線誤差角(例 ≤0.5°)、瞳孔検出率
  • 遅延:フォトダイオード+ハイスピでフレーム到達遅延計測
  • 無線/EMC:出力、隣接チャネル漏洩、放射/伝導ノイズ
  • :最大負荷時の皮膚接触面温度(規格内)
  • BCI:電極インピーダンス、SNR、アーチファクト耐性
  • ハプティクス:出力周波数・振幅、応答遅延、EMS電流上限

規格・認証(非医療機器想定)

  • 安全:IEC 62368-1(情報機器)、電気ショック/発熱
  • 無線:FCC/CE/TELEC(日本)、Bluetooth/Wi-Fi
  • EMC:EN 55032/55035 など
  • 電池:UN38.3、IEC 62133
  • 皮膚接触:ISO 10993-5/10(刺激/感作)相当評価
  • 化学:RoHS/REACH
  • SAR/ばく露:必要に応じ評価(頭部近接運用)

医療級/侵襲・神経刺激中心の場合:IEC 60601-1/-1-2/-2-10(神経刺激)、ISO 13485(QMS)、FDA/PMDAクラス審査が必要になり、開発・製造プロセスが医療機器向けに大幅に拡張されます。


品質管理と量産KPI

  • IQC(受入):レンズダスト、ディスプレイ輝度、セル内部抵抗、電極インピーダンス
  • IPQC(工程内):直行率、タクト、温度/トルク/塗布量SPC管理
  • OQC(出荷):機能総合合格率、ランダム信頼性抜取
  • 主要KPI:一次直行率>95%、総合歩留まり>90%、RMA<1%、DOA<0.3%

コスト構造の目安(BOM比率の一例)

  • 光学/表示 35–45%/SoC/基板 20–30%/カメラ・センサー 10–15%/バッテリ 8–12%/機構 8–12%/ハプティクス/BCI 5–15%/梱包・付属 2–4%

リスクと対策

  • 光学ダスト/貼合歩留まり → クリーンルーム管理、イオンブロー、工程設計
  • 熱/重量バランス → 軽量材+後頭部重心、熱拡散板
  • 皮膚刺激/汗 → 生体適合材・通気設計、洗濯可能な内装
  • EMS/刺激安全 → 二重電流制限、ウォッチドッグ、HWフェイルセーフ
  • BCIノイズ → 電極配置最適化、ケーブルシールド、アーチファクト学習

開発ドキュメント/SOP(最低限)

  • PRD/システムBlock、回路/配線図、光学設計書、熱解析、DFX一覧、FMEA
  • 各モジュールSOP(組立・キャリブ・検査)、EOLテスト仕様、治具設計
  • 材料表(BOM)+AVL(承認ベンダー)+トレーサビリティ計画
  • 規制試験計画/報告書、ユーザ安全マニュアル

侵襲型(将来の“真”フルダイブ)に触れる場合の補足

  • 要医療機器プロセス:ISO 13485、設計管理、臨床試験、長期安全性
  • 製造:クリーン度、無菌、パッケージング、滅菌バリデーション
  • 規制審査:PMDA/FDA、リスクベネフィット説明責任

まとめ

  • まずは Lv.1~2中心(XR+ハプティクス+BCI入力)で量産可能な設計を固め、EVT→DVT→PVTを通して光学・安全・歩留まりを潰すのが現実解。
  • BCI刺激などLv.3要素は限定的かつ安全重視でフェイルセーフを標準装備。
  • 規格対応と検査治具の作り込みが量産の要です。

必要なら、このフローを工程表(ガント)や検査仕様テンプレライン配置図に落としてサンプルを作ります。

投稿者: chosuke

趣味はゲームやアニメや漫画などです

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